所長ブログ

2013年1月28日 月曜日

[書評]カレル・チャペック(栗栖継 訳) 山椒魚戦争(岩波文庫)

池袋で、皆様のために、日夜頑張っている弁護士の林です。

 
さて、今日は久しぶりに、1冊、書評をしたいと思います。(本記事は書評なので、ここからは、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)

当職は、普段は、業務の関係もあって、会社法務に関する本や金融商品に関する本などの業務に関連する本や、基本的な知識を身につける目的での実用性の高い本を読むことが多い。しかしながら、小説が無性に読みたくなったので、買ったまま「積ん読」状態になっていた、この本を読むことにした。(なお、本書は、小説なので、なるべくネタバレしないように書きますが、必要な範囲での最低限のネタバレはお許しください。)

著者のカレル・チャペックは、チェコの世界的な作家である。本書の原書初版は、1936年に出版されたものであるが、著者は、1938年の12月に死去したので、晩年の著作である。本書は、「ユートピア小説」「SF小説」といわれることもあるが、著者は、「私がこの作品で描いたのは、ユートピアではなく、現代」(11頁)と述べている。

本書の大きな筋は、以下のとおりである。赤道直下のタナ・マサ島で、発見された山椒魚が、やがて人間と同じような知性の高い生き物に進化する。そして、安上がりな労働力として、人間に代わって労働を行うようになるが、やがて、陸地を減らすように要求し、人間を征服するようになる。しかしながら、最後は、山椒魚同士で戦争になってしまい、山椒魚が全滅する。

確かに、山椒魚が、文明の段階まで進化するとしているところをとらえれば、SF小説のようにも読めると思う。ただ、著者が書きたかったものは、やはり「現代」とだったのではないかというのが、読後感である。それは、第2次世界大戦の直前という時代背景の中で、当時の世界情勢を示唆するような部分が数多くみられるからである。例えば、「共産主義インターナショナル」が、「全世界のすべての革命的被圧迫山椒魚に」対するアピールを出していたり(289頁)、また、山椒魚の独裁者として登場するチーフ・サラマンダー(人間ということになっている)は、「第一次世界大戦当時は、曹長だったんだ」(418頁)とアドルフ・ヒトラーを示唆する記述があるところからしても、人間世界の現実を、山椒魚に仮託して書いていたと思われるからである。

この本の内容は、現代でも考えさせる部分が多いと思う。たとえば、412頁にある「人間が山椒魚に仕える、ってわけか」というセリフなどは、現代において、人間が便利になるために作ったはずの「手段」に支配されていることに類比的ではないだろうか。技術も、マニュアルも、もともとは、便利になるための手段として作成されたはずである。しかしながら、これらの「手段」が自己目的化していることは、現代において多いといってよいであろう。また、「大爆発後、大気中には、いつも微細な砂塵がただよい」(347頁)というところは、2011年3月11日の福島第一原発事故後、今なお、高い放射能が検出されていることと似ているように思われる。

訳者の解説にもあるように、「科学・技術の発展は、はたして人間に幸福をもたらすか。それは幸福をもたらす反面、あるいは幸福をもたらすようでかえって、不幸をもたらし、けっきょく人類を滅亡にみちびくのではないか」(441頁)というのが、著者の念頭にある問題なのだろう。

もちろん、著者の念頭にあったのは、第2次世界大戦直前の問題であるが、そこで示唆される問題の中には、著者が本書を書いてから70年以上が経過した現代でも、まだ、解決していないものが多いと思う。そして、現代の、我々を取り巻く問題を考える際にもヒントになることはあるのではないかと思う。

優れた本は、どんな本でも、何か考えさせるところがあるということがよく分かった。

この書評を読んで、山椒魚戦争を読んでみたいと考える方がいらっしゃれば、本当にうれしく思います。

また、印象に残る本に出会ったら、書評も書きたいと思いますので、その時も読んでいただければ幸いです。

林浩靖法律事務所
弁護士 林 浩靖



投稿者 林浩靖法律事務所

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