所長ブログ

2015年9月24日 木曜日

[書評]関西学院大学災害復興制度研究所、東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)、福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)編 原発避難白書(人文書院)



1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「原発避難白書」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書に収録されている論考のうちの一本は、当職が執筆した「賠償訴訟の全体像」であり、以前にも紹介させて頂いた書物(該当する記事は、こちら)だが、早速、他の執筆者が書かれた論考を通読した。なお、本書評においては、当職執筆部分は書評の対象外とする。

以前の記事で、「東京電力福島第一原子力発電所事故による被害の全貌をつかむには、現時点で最良の書物と思います」と書いたが、まさに、かかる評価が該当する書物である。実は、「避難者」とはだれかということについては、定義もなく、復興庁の統計もあいまいなままに行われている。「『避難者とは誰か』を決める作業は、...被災者(被害者)を決め、責任の有無を決める作業」(35頁)であるところ、いわゆる「国策民営」で原子力を推進し、責任を問われる危険性が大きい日本国にとって、決めたくないのであろう。さらに、「原賠審の指針や東京電力の賠償の支払いには、避難者のさらなる混乱の原因となっている側面がある」(58頁)。賠償に差をつけており、しかもその基準の合理性がないため、被災者を分断しているのである。そのために、被災者に生じている苦悩が、きちんと描かれているのが本書である。

当職も、福島原発事故被災者の損害賠償請求訴訟に携わっているが、「法的に損害賠償責任を問うということは、何が被害かを明確にし、誰が加害者かを特定する作業に他ならない」(18頁)から、被害を受けた依頼者のために、東京電力や国の責任をきちんと明らかにしたいと思います。また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖


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2015年9月17日 木曜日

[書評]津田敏秀 医学的根拠とは何か(岩波新書)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「医学的根拠とは何か」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、岡山大学大学院環境生命科学研究所教授であり、疫学をご専門の一つにしている。公害事件や健康被害の事件の裁判でも専門家証人として、証言されている方である。

著者は、「科学的根拠(エビデンス)に基づいた医学」(36頁)を重視し、「『何倍その病気が多発する』という発生の程度の違いによってわれわれは因果影響を知る」(76頁)という観点から、疫学データを重視する。そして、個人の因果関係を知ることなどできないという立場から、「疫学データで明瞭に証拠が示されるようになって以降、その意味を理解できていない...判決がむしろ増えている」(80頁)と現在の裁判実務を批判している。

確かに、疫学データは、あくまで確率という形であらわされるから、個人の因果関係を直接知ることはできない面はある。ただ、直接的な原因が表せない面のある環境汚染や食品汚染などによる被害の場合、しかも、それが蓄積することで被害となる場合、そもそも「個人の因果関係」をどのようにすれば知ることが出来るのかということを示せない限り、疫学を「集団の因果関係」の証明にはなっていても、「個人の因果関係」の証明にはなっていないということを言っても説得力はないであろう。もし、現在の裁判実務の立場を維持するのであれば、「個人の因果関係」の立証方法を示す必要があるであろうし、逆に、示せないのであれば、疫学による証明(確率による関連性の立証)があれば、因果関係を肯定する扱いにするよりないだろう。このような意味で、医学(疫学)の立場からの、現在の裁判実務への鋭い批判が含まれているものと考える。法律家に対する重い問いかけであり、法律家として考える必要があるだろう。

当職が扱っている原発事故被災者の賠償でも、放射能汚染との因果関係の立証という点で、関連する書籍であり、本書で得た知識も生かしながら、これからも原発事故被災者のために頑張りたいと思います。

また、原発事故以外についての情報も、常に収集・消化するように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2015年9月10日 木曜日

「原発避難白書」(人文書院)発刊のお知らせ

関西学院大学災害復興制度研究所、東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)、福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)の編集による「原発避難白書」が、本日、発刊になりました。
当職も、「賠償訴訟の全体像」の部分を執筆させて頂きました。
東京電力福島第一原子力発電所事故による被害の全貌をつかむには、現時点で最良の書物と思いますので、多くの方に手を取ってい頂ければ幸いです。

林浩靖法律事務所
弁護士 林 浩靖

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2015年9月 3日 木曜日

[書評]牧野剛ほか 「ことばはちからダ!現代文キーワード-入試現代文最重要キーワード20」(河合出版)



1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「ことばはちからダ!現代文キーワード-入試現代文大重要キーワード20」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、大学受験生用の参考書で、大学受験の大手予備校である河合塾の5人の講師による共著である。「入試現代文最重要キーワード20」と題名にあるが、これは、第1章に掲載されている「『近代批判』『論理性』という特徴を持つ流行の評論文」「を読むため」(5頁)の20語(実際は、対義語や関連する語も記載されているので、もう少し増える)を指しているもので、そのほかに「読解を助ける背景的な説明」(5頁)なども記載されており、200頁程度のコンパクトな書物ではあるものの、評論文や哲学書を読むための基本語の解説がなされており、人文科学、社会科学に関する書物を読みやすくしてくれる書籍である。

大学受験生であれば、この書物に記載されている用語の意味を暗記しておくのも良いだろうし、それは説明問題が出題された場合に解答を書く助けとなるだろうが、社会人の場合は、そこまでは必要なく、語句の意味がつかめ、そのイメージや注意点が頭に入っていれば十分であろう。
例えば、数学や外国語であれば、「分からないということ」は分かるが、人文科学、社会科学の書籍の場合、「分からないということ」が分からず、誤読する可能性があるが、本書に記載されている用語を押さえておくことで、誤読をかなり防止できるであろう。

大学受験の参考書は、もちろん、本来のターゲットは大学受験生であり、大学受験の対策に役立つために書かれている書物であるが、社会人が教養を身に着けるために使える書物もある。上手く使える書物を活かしながら、知識・情報を、常に収集・消化するように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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