所長ブログ

2016年3月28日 月曜日

[書評]丸山真男 「文明論之概略」を読む 上(岩波新書)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「『文明論之概略』を読む 上」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、言わずと知れた大塚久雄、川島武宣と並び称される社会科学の巨頭である。本書を薦められたのは、確か、当職が司法試験に合格した前後だから、約15年前のこととなる。上中下巻に分かれており、本書は、上巻で読み解きの対象となっている福沢諭吉「文明論之概略」の巻一、即ち、第3章までを扱う。著者は、「原典を必ず目の前に置いて読んでいただきたい」(まえがきⅰ頁)と述べているが、原典が文語文であることもあり、横着した若き日の当職は読んでもなにも理解出来なかった。今回は、原典も購入しての再読になる。

本書の中で、一流の政治学者であった著者は、「古典を読み、古典から学ぶことの意味は-すくなくも意味の一つは、自分自身を現代からから隔離すること」(9頁)とし、思想的古典に向き合う際に重要なのは、「先入見をできるだけ排除して虚心坦懐に臨む」(13頁)ことと「『早呑込み』の理解」(17頁)に陥らないように注意すべきこと、「どんな思想家の場合でも、その思想家の研究に必要なのは、その人物の思想の中核となる言葉やフレーズは何かということ」(103頁)など、古典を読む際の注意事項もちりばめられている。

文明開化の進展と開国直後の独立維持という2つの問題の狭間で、「自分の幕末から維新にかけての体験による実感と問答し」ながら(150頁)洋書を読んだ福沢諭吉の主著である「文明論之概略」を、当代一流の学者であった著者の導きで読むということは、古典を読むということのトレーニングにもなると思う。

林浩靖法律事務所は、法律に限らず、教養を身に着け、社会のためという確固たる信念を持って業務しておりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年3月21日 月曜日

[書評]萩原遼 朝鮮戦争 金日成とマッカーサーの陰謀(文春文庫)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「朝鮮戦争 金日成とマッカーサーの陰謀」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、元赤旗記者で、平壌特派員も務めたことのある人物である。かかる著者が、赤旗退職後に、ワシントンの国立公文書館所蔵の北朝鮮からの奪取文書を通覧して、「今の南北朝鮮の問題を解くカギ」(11頁)である「朝鮮戦争の真の姿を朝鮮労働党、朝鮮人民軍、人民共和国政府などの内部文書によってまとめた」(9頁)書物である。

北朝鮮という秘密主義の国の情報は限られているため、謎であった部分に光を当て、「北の人民軍が開戦直前にどう移動し、どこにどう配置されていたか」(201頁)を突き止め、「朝鮮戦争は北側が周到な準備のすえに謀略的に南側に武力攻撃を加えたもの」(10頁)であることを明らかにしている。北の文書によって証明しているところがポイントであると考える。

そして、「朝鮮戦争という数百万人もの人命を失った悲劇のおこりを調べていくうえで、その悲劇のそもそもはどこなのか、ということになると、やはりソ連軍の北朝鮮占領と、朝鮮人民になんの足場も持たないソ連軍の子飼いのキム・ソンジュがつれてこられた事実をさけて通るわけにはいかない」(58頁)という認識から、ソ連による北部朝鮮の占領以降の朝鮮戦争の前史も、「ソ連による二十万トンのコメの供出命令」(70頁)など詳細に描き出している。

著者の分析は、「マッカーサーの米極東軍司令部はすべて中国革命の進展とそれに鼓舞された金日成の動きにあわせて動いていた」(294頁)として、「金日成が隠密にすすめてきた朝鮮戦争の陰謀は、マッカーサーの極東米軍によって一年前からことごとくつかまれていて、かれらの大謀略に完全に利用された」(10頁~11頁)という結論に至る。この視点に提示も重要であると考える。

朝鮮半島は、日本から最も距離の近い隣国であることは、好き嫌いの問題とは別であり、否定のしようがない。そして、朝鮮戦争は、極東史において重要なエポックである。

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2016年3月14日 月曜日

[書評]日野行介 原発棄民 フクシマ5年後の真実(毎日新聞出版)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「原発棄民」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、毎日新聞の記者であり、以前、書評をした「原発避難白書」(該当する記事は、こちら)の執筆者の一人である。

本書は、著者が原発事故についての取材を始めたのが、2014年10月であるため、それ以降の内容が中心であるが、政府・福島県の担当者への取材を中心に、政府の真意を明らかにしていこうという点が特徴である。結論としては、政府の真意は、「原発避難をとにかく早く終わらせる」(184頁)ということになろう。日本政府の政策は、まさに、書名のとおり「原発棄民」であり、敗戦時の旧満州に多数の国策移民を置き去りにした中国残留孤児・中国残留婦人問題を生じさせたときから何も変わっていないというのが、悲しいかな、結論となろう。

本書では、「自主避難者の生活に対して世間が抱く誤解」として、①多数の賠償金を受け取った(実際は、少額の一時金が支払われただけ)、②住宅(無償で居住できるのはメリットでもなく、特に母子避難者は二重生活になり、負担が大きい)が挙げられている(60頁)が、このような目線は、被災者とばかり接するとだんだん気づかなくなるものなので、盲点を気づかせてくれる面もある。

当職も、福島原発事故被災者の損害賠償請求訴訟に携わっているが、国や東電に責任をあいまいにして、被災者を棄民にするのを許さないように頑張っていきたいという決意を新たにしました。また、原発事故以外の事件も親身に取り組んでおりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年3月 7日 月曜日

[書評]吉田千亜 ルポ 母子避難 - 消されゆく原発事故被害者(岩波新書)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「ルポ 母子避難」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、フリーライターであり、以前、書評をした「原発避難白書」(該当する記事は、こちら)の編集幹事の一人である。

原発事故被害者の中でも、母子避難した被害者の方を中心に当事者の話が厚く盛り込まれている。特に、「自主避難者」と呼ばれる区域外避難者の問題を中心に取り上げている。もっとも、東京電力が原発事故を起こし、放射能を広範囲にまき散らかしたために、避難を強いられているのだから、「自主」的ではなく、強いられた結果なのだが、この問題を論じだすと本来の書評がどこかへ行ってしまうので、ここでは、便宜的に一般に用いられている「自主避難」という語を用いることをお断りする。

当職は、原発事故被害者の賠償問題にも関わっているが、巡りあわせもあり、旧緊急時避難準備区域と呼ばれる福島第一原発から20~30キロメートルの区域の担当案件が大多数を占めている。そのため、本書のように、自主避難者の特色が具体的に分かる書籍は、現在、原発事故被害者が分断され、国の失政によって分断を強いられ、苦しみを増幅させられていることを感じさせられる。「自主避難者たちは、避難の『正当性』や『合理性』を地震で説明しなければならない場面にたびたび立たされてきた」(100頁)などは、自主避難者であるがゆえの特色である。

日本政府の政策は、まさに「自主避難者は棄民」(211頁)するという政策であるが、平成24年8月で賠償を打ち切られた旧緊急時避難準備区域の者も棄民されており、避難指示の解除が進むにつれて、棄民が増えている状況にある。

当職も、福島原発事故被災者の損害賠償請求訴訟に携わっているが、少しでも、原発事故被害者に寄り添えるように頑張っていきたいという決意を新たにしました。また、原発事故以外の事件も親身に取り組んでおりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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