所長ブログ

2014年4月29日 火曜日

[書評]中谷巌 資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言(集英社インターナショナル)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、中谷名誉教授の「資本主義はなぜ自壊したのか」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

本書の著者は、一橋大学名誉教授であり、多摩大学学長なども務めた近代経済学を専門とする経済学者で、小泉改革の一翼も担った人物である。以前、一度読んだ本であるが、今回、この本を読みなおそうと思ったのは、現在、アベノミクスなる訳のわからない支離滅裂な経済政策が日本で行われており、格差社会の拡大を招いているので、経済学の限界も含めて、新自由主義の限界をもう一度確認したいと思ったからである。

近代経済学には、合理的な経済主体を想定するために、「『利益は二の次』という考え方は、経済学ではすべて捨象されてしまう」(55頁)という問題がある。これは、経済学がモデルを作って議論する学問であり、モデルを作る上で置かざるを得ない仮定であり、そのために論理で議論できるようになるとはいえ、そのために、現実とはどうしても乖離が出てしまうのである。

そして、現実世界を考えたとき、近代経済学には、次のような限界が生じる。「近代経済学の論理は、まず、完全競争の仮定のところで無理があり(情報は平等に配分されていない)、所得再配分のところでは、民主主義による再配分機能を過大に評価していると言えるだろう。また、地球環境破壊のような『外部性』の制御についても有効な手立てを提供することに失敗している。」(111頁)

これは、経済学自体の限界であるが、さらに、もう一つ問題がある。近代経済学は、イギリスで生まれ、アメリカで発達した学問であり、アメリカの歴史や文化に裏付けられているといえる。しかも、アメリカは歴史の短い新しい国で、「稀にみる『理念国家』」(176頁)であるから、文化や社会といった要素を捨象することが許されるとしても、「歴史も文化的伝統もまったく異なるアメリカ型の資本主義を日本がそのまま受け入れる必然性はどこにもない」(366頁)はずであるが、既に、アメリカで大失敗したレーガノミクスの劣化コピーとしか言いようのないアベノミクスが行われ、格差は拡大している。まさに、社会保障法で保護を考えねばならない段階に入っていると思う。

法律事務所でできることには限界があるかもしれませんが、中小企業の皆さんや社会的弱者の皆さんに少しでも寄り添っていきたいと思いますので、何か、お困りごとがございましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談下さい。

弁護士 林 浩靖

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2014年4月22日 火曜日

[書評]沢野伸浩 本当に役に立つ「汚染地図」(集英社新書)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「本当に役に立つ『汚染地図』」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

本書の著者は、金沢星稜大学短期大学部教授であり、ナホトカ号重油流出事故の漂着油調査などのフィールドワークも行っている方である。この本は、「地理情報システム」(GIS)をキーとして、まず、汚染地図の作成方法を説明し、その上で、GISの中身や活用方法を説明している。最近の大規模な汚染事故は、もちろん、東京電力福島第一原発事故であるから、この事故に関する話が多くなる。そのため、本書では、SPEEDIに関して、「一〇年近く前に改められたはずの『規格』が、『原子力防災の世界』ではそのまま見直されることもなく、使われ続けていた」(19頁)など、法律家が気づきにくい国の過失が指摘されている。

また、著者が作成した「セシウム汚染マップ」の意義として、「原発事故発生直後の汚染状況が、一目で、しかも集落単位や家単位で把握できる。こうした"使い勝手のいい„汚染分布図は、他には見たことが無い。しかもそれは、『核兵器を保有する米国が測定した』というお墨付きがあるデータに裏付けられている。」と述べており、福島台地原発事故の被災者のための活動をしている当職には、本当に興味深い資料に思われる。

さらに、福島第一原発事故が、チェルノブイリ事故の10分の1程度のものという御用学者や御用ジャーナリズムが唱える俗説に対しても、「『汚染面積』でチェルノブイリと福島を比較するうえでの最大の問題点は、福島側の『汚染面積』値には、海域に流れ出した『東半分』の汚染実態が全く反映されていないということ」(163頁)と問題点をきちんと指摘して、フィールドワークを行っている学者らしく、データを示した上で、「『一般住民の居住は不可能』とされる一平方メートル当たり一四八万ベクレル以上の汚染に晒された住民の数では、チェルノブイリも福島もさして変わらない」(165頁)との結論を述べ、御用学者や御用ジャーナリズムが唱える俗説が誤りであることを具体的に明らかにしている。このように、具体的な議論がされているので分かり易い本である。

当職は、本書で得て知識も生かして、原発事故被災者のためにさらに頑張る所存ですし、また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2014年4月15日 火曜日

[書評]冲方丁 天地明察(角川書店)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、2012年に映画化もされている「天地明察」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

普段は、どうしても業務に関係する本や一般的な教養を得るための本が中心となっていまい、小説を読む機会がないのだが、たまに、無性に小説が読みたくなることがある。そこで、今回、以前から読んでみたいと思っていた本書を読むことにした。

本書は、日本独自の暦(貞享暦)を作るという一大プロジェクトに生涯をささげた渋川春海の生涯をテーマにした歴史小説であるが、理系離れが叫ばれて久しい現在、多くの者が敬遠するであろうテーマである数学や天文学をスリリングに描いており、引き込まれ、一気に読みたくなる小説である。

本書の中には、江戸時代の和算の問題が2問収録されている(20頁~21頁、236頁。なお、143頁の問題は解けないとのこと)が、2問とも難問で、当職には今のところ、溶けていない(解答の数字は、本書内に示されているが、解き方はない)。時間があるときに、また、考えたいと思っている。

本書は小説であるが、考えられる記述がいろいろある。例えば、「自分なりに術を立てて持参すれば、教える側もどこが間違っているか指摘しやすくなります。誤りを指摘されることを恐れて、何もかも拝聴するだけという態度は、かえって相手に労をかけます。」(88頁)という言葉は、学習において、自分なりに考えることの重要性を示しているし、また、「何の目的もなくおびただしい情報ばかり集めても、無駄ばかり増えてゆく。それよりもまず全ての土台となるような別の事業を設定し、その成就を通して、少しずつ授時暦(注:当時、精緻な暦と考えられていた中国の暦)の誤謬解明へとつなげる」という渋川春海の考え方は、大きな事業に取り組むときの持つべき心構えを示しているように思われる。

当職も、今、原発事故の被災者の救済という大きな話にかかわらせて頂いている。学ばねばならないことも多ければ、大きなことに取り組まねばならないことでもある。本書を読みながら考えたことを活かして、皆様の抱えるお困りごとを少しでも解決できるように努力する所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2014年4月 8日 火曜日

[書評]中田裕康 債権総論(第三版)(岩波書店)

1冊、書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、中田教授の「債権総論(第三版)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

著者の中田教授は、東京大学大学院の教授であるが、元弁護士で実務の世界も知っていることもあり、実務的な部分への配慮も抜かりない。その意味で、本書は、実務家にとって使いやすい書物と言える。例えば、「債権総論は、金融取引やサービス取引の基本」と明示して(7頁)、社会的な機能へきちんと配慮している。この点は、内容面でも、わざわざ「債権譲渡の社会的機能」という一節(551頁以下)を設けていることからも、著者がかかる側面にきちんと配慮していることが伺われる。

それと同時に、「『債権総論から契約規範へ』という観点は現在の大きな潮流」(589頁)と学界の大きな流れをきちんと示しつつ、中間試案との関係も591頁以下に対応して検討することが可能なように整理されている。

このように、実務的な必要性と理論的な問題が、きちんとバランスよく論じられており、実務家にとって、使いやすい基本書である(学生にもお勧めできる書物である。)。

林浩靖法律事務所では、理論的な動向もきちんと押さえて、皆様に最良の法的サービスを提供いたしますので、何か、お困りごとがございましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談下さい。

弁護士 林 浩靖

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2014年4月 1日 火曜日

[書評]山本博文 NHKさかのぼり日本史外交篇[5]江戸 外交としての"鎖国"ーなぜ、二百年以上の平和が可能だったのか(NHK出版)



1冊、書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「NHKさかのぼり日本史外交篇[5]江戸 外交としての"鎖国" なぜ、二百年以上の平和が可能だったのか」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

本書は、以前に書評をした「NHKさかのぼり日本史外交篇[7]室町"日本国王"と勘合貿易ーなぜ、足利将軍家は中華皇帝に「朝貢」したのか」(該当する記事はこちら)、NHKさかのぼり日本史外交篇[9]平安・奈良 外交から貿易への大転換ーなぜ、大唐帝国との国交は途絶えたのか」(該当する記事はこちら)と同じシリーズの江戸時代編で、東京大学大学院情報学環・史料編纂所教授の山本博文氏の著書である。

「鎖国」というと、全く、外国との関係を断ってしまっているようなイメージを持つが、実際には、長崎だけでなく、朝鮮との窓口になる対馬口、琉球との窓口になる薩摩口、アイヌとの窓口になる松前口に4つの出口が開いていた。もっとも、鎖国自体の目的にしても、あくまで、「キリスト教の影響力を日本に及ぼす可能性のある外国との関係を幕府は断とうとした」(102頁)に過ぎず、完全に国を閉ざそうなどという意図を持ったものではなかった。

そして、既に大航海時代が始まり、世界の一体化が始まっている17世紀に、日本(江戸幕府)がこのような政策を取れたのは、日本に武力があったこともあるが、この政策は、結果的に200年以上の平和を日本にもたらしたものであり、「平和」だからこそ、産業も発展できたのである。その意味で、先人の知恵に感謝しなければならない。

今回は、業務と全く関係がない書籍に書評をさせていただきました。ただ、歴史から学ぶことは多いと思います。勿論、今後も皆様のために頑張らせて頂きたいと思いますので、お困りの際は、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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