所長ブログ

2012年12月25日 火曜日

[書評]枝野幸男 「叩かれても言わねばならないこと」(東洋経済新報社)

 書評の4冊目は、枝野幸男氏の『叩かれても言わねばならないこと』です(なお、本記事は、書評ですので、これ以後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます)。

 著者は、間もなく退任することが決まっているとはいえ、本日現在は、現職の経済産業大臣である。著者の政治的な立ち位置をどう考えるかという問題があるが、この『叩かれても言わねばならないこと』には、「現在、地域や職場、家庭、学校といったコミュニティから孤立して、疎外感を味わいながら、生きにくさ、暮らしにくさを感じている人が増えている」(64頁)という記述があり、伝統的なコミュニティを重視していると思われることから、日本の伝統的な保守の流れにあり、さらに、「中間層をしっかり守り、その中間層がそれぞれやりがいを見つけることができれば、それは日本の成熟した豊かさを支える基盤になる」(67頁)と、中間層を重視する立場をとっていることから、いわゆる元首相の吉田茂を源流とする保守本流の思想の流れにある政治家とみてよいであろう。

 さて、この本を読もうと考えたのは、日本は、長い間、キャッチアップすることで近代化を実現してきたが、逆に、高齢化が進み、財政危機に格差拡大、フリーターの増大など、ひずみが目立ってきた現在、今後、日本がどのような社会を作るのかについて、正面から論じていると思われたからである。

 「近代化路線の限界と矛盾をしっかり認識し、それを乗り越えること」(4頁)という、著者の問題提起は、どのような政治的立場をとるにしても、逃げるわけにはいかない問題であろう。あとは、その問題への解決策をどう考えるかという政策の問題である。

 著者の意見には、賛成できるものもできないものもあり、それは、その政治的立場によって異なることは当然である。しかしながら、近代化が行きついた現代の日本が抱える問題点については、的確な問題提起がなされていると思われる。その意味で、読む価値のある本であることは間違いないだろう。

 この点で、著者が提起している原発問題や医療・介護問題などの問題点については、政治家は当然、国民全てが、何らかの自分なりの解答を考えるということは必要であろう。

 なお、当職は、概ね、著者の意見には説得力を感じ、賛成できる部分が多いと考えている。しかし、当職は著者と反対の意見を持っている部分もある。例えば、著者は、「政治は幸福をつくることができない」(61頁)としているが、当職は、戦争のない社会をつくる、貧困の無い社会をつくるなど、政治が作れる幸福はあると考えている。もちろん、「政治が幸福を与えることはできない」とは、当職も思っているけれども。

 
 また読書が進み、書評ができる書籍に出会ったら、書評も書きたいと思います。そのときも、読んでいただけますと、幸いです。また、書評でご紹介させて頂いた本を読んで見たいと考える方がいらっしゃれば、本当にうれしく思います。

林浩靖法律事務所
弁護士 林 浩靖

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2012年12月23日 日曜日

[書評]宇野弘蔵 「経済原論」(岩波全書)

 書評の3冊目は、元東京大学の教授であった故宇野弘蔵氏の『経済原論』(岩波全書)です(なお、本記事は、書評ですので、これ以後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます)。この本は、序の3頁において、「根本において『資本論』から学んだもの」と書かれているように、マルクス経済学の本である。

 今回、この『経済原論』を読むことにしたのは、新自由主義、即ち、資本主義の純粋化が生じている中で、資本主義の本質は何かを考えてみることが必要な時期なのではないか、そして、そのためのヒントになる何かがマルクス経済学にあるのではないかと考えたからである。

 もっとも、社会主義国家の頭目であったソビエト連邦が崩壊したのが、1991年12月であるから、既に21年になる。社会主義国である中華人民共和国やベトナム社会主義共和国は、既に市場経済を採用し、少なくとも経済的には資本主義体制をとっていると言えるだろうし、朝鮮民主主義人民共和国は、金王朝の封建制とみる方が実態に近いように思われるので、社会主義を継続している(ように思える)のは、実質的にはキューバぐらいであろう。ただ、「イデオロギー」としてのマルクス主義の意義は、もはやないと思うが、「科学」としてのマルクス経済学まで、意義を失ったとは思わない。この点、宇野氏は、「『資本論』をイデオロギーの書として、これを如何なる批判に対しても、擁護しようというのは、これを読みもしないで排撃するのと同様に『資本論』の偉大なる科学的業績を現代に生かすものではない」(序の4頁)と述べて、あくまで社会科学としての経済学を目指しているところからも、「マルクス主義」の経済学ではなく、資本主義の分析としての「マルクス経済学」を学ぶには適切な本だからである。実際に、この『経済原論』は、無批判に、マルクスの『資本論』に従うものではなく、巻末には、「本書で採りあげた『資本論』における問題点」という索引が附されており、マルクス経済学を理論的に深化させようする本である。

 実は、当職は、慶応大学経済学部の学生であった14年前、経済原論Ⅲという講義があり、マルクス経済学の基礎を勉強したことがある。しかしながら、正直言って、何も頭に残らなかった。いや、そもそも何を言いたいのかも分からなかった。

 しかし、今回、宇野氏の『経済原論』を読むと、商品を分析のスタートにおくマルクス経済学が、「労働力の商品化」というマルクスの切り口を基礎にすると、「労働力自身は、資本によって生産されるものではない。労働者自身によって再生産されなければならない」(48頁)ものであるのもかかわらず、資本は、購入した労働力という商品を「価値増殖という無制限なる欲望の対象」(67頁)とすることで、労働力を使い潰そうとする欲求が含まれること、「土地自身が資本としての生産手段と異なって労働の生産物でない」(181頁)、即ち、土地のような環境は資本が再生産できないものであるという根本的な事実があること、資本主義が、原理的には、「あたかも永久的に繰り返えすかの如くにして展開する」(226頁)ことが、理論的に分かる。

 ここから考えると、価値増殖という無制限なる欲望を持っている資本を中心とする資本主義は、資本によって生産できない労働力や土地のような環境を使い潰すまで、自律的に、永続的に回っていくシステムであるというのが、当職の結論となる。しかしながら、労働力や環境を使い潰すということは、人類の滅亡に外ならない以上、使い潰すことを許すわけにはいかない。

 社会主義が失敗したことが、資本主義が最良のシステムであることを意味するものでない以上、人類は、資本主義をどのように変えていくのが良いのかを考えなければならないと思われる。

 なお、この本の形式的な使い勝手の良さとして、各頁の余白が結構広いことがある。必要に応じて、考えたことや調べたことを、余白にメモできることも、基本書としての利用を容易にし、情報の集約を容易にしてくれる。

 
 あと、もう一冊の書評も書きますので、お読みいただければ幸いです。

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弁護士 林 浩靖

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2012年12月21日 金曜日

[書評]佐藤次高他 「詳説世界史B」(山川出版社)

 書評の2冊目は、佐藤次高氏他による『詳説世界史B』(山川出版社)です(なお、本記事は、書評ですので、これ以後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます)。この本は、いわずとしれた高校の世界史の教科書である。今、高校の世界史の教科書を読みなおそうと思ったのは、現代を知り、未来を考える際に、歴史を知り、その基本的な事項を記憶しておくことが、不可欠であると思うようになったからである。

 例えば、リーマンショックに象徴され、いまだに続く不況と、このところニュースを騒がせるTPP問題などを考える際に、「世界恐慌とその影響 1929年10月、ニューヨーク株式市場(ウォール街)での株価の暴落から、アメリカ合衆国は空前の強硬におそわれた。」(321頁)から始まる第15章の「4 世界恐慌とファシズム諸国の侵略」の節などは、参考になると思う。

 そして、この『詳説世界史B』は、事実上、大学入試の標準になっており、実質的には、「国定教科書」と言ってもいい本であるから、基本的な知識の標準を画するには、もってこいの本ということになる。実際、例えば、池袋には大きな書店が何軒かあり、当職は、ジュンク堂書店と西武百貨店池袋本店内のLIBROに行くことが多い。この2つの書店は、高校の教科書は置いてない書店であるが、例外が、この『詳説世界史B』(山川出版社)と『詳説日本史B』(山川出版社)の2種類の教科書である。このことも、この『詳説世界史B』が、事実上の「国定教科書」と言えることを示しているように思われる。

 ただ、この本(に限らず、高校の教科書全体に言えることだが)は、基本的な知識を画するには良い本だが、授業で教師が説明することを前提に書かれているため、この本自体は、暗記には適していないし、前後の流れがつかめなくなることがある。そのために、補助教材として、詳説世界史要点整理ノート(詳説世界史要点整理ノート編集委員会編:山川出版社)を併用した。この教材は、左ページは、『詳説世界史B』の要点を整理したノート(重要な用語は空欄になっているので、暗記しているか確認できる)になっており、右ページは、たまに確認問題があるほかは、余白になっているので、必要に応じて、考えたことや調べたことをメモして情報の集約をはかることができる。

 事実上の「国定教科書」だけに、補助教材が充実しており、自分なりに必要に応じたラインナップが組めることも『詳説世界史B』(山川出版社)の魅力だろう。

 高校レベルの基本的な知識が身についていない分野で、先端的な知識を仕入れようとしても、身につかず、応用もできないので、時間の無駄になる。基本知識が身についていない部分を補うためには、社会人にとっても、高校の教科書・学習参考書は役に立つと思う。

 当職も、足りない知識は常に埋めるように心がけたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。

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2012年12月20日 木曜日

[書評]伊藤眞 「会社更生法」 (有斐閣)

今回から、4冊連続で、書評を書きたいと思っています。1冊目なので、弁護士らしく、法律書の書評を書くことにしたいと思います。書評の1冊目は、伊藤眞氏の『会社更生法』(有斐閣)です(なお、本記事は、書評ですので、これ以後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます)。この本の初版の第1刷が発行されたのは、本年11月30日だから、まだ、出版されて1ヶ月もたっていない本である。

 会社更生法は、平成15年に新しい会社更生法が成立し、その後、新破産法の成立に伴う平成16年改正、会社法の成立に伴う平成17年改正がなされている。しかし、会社更生法そのものの体系書は、昭和56年に出版された松田二郎氏が有斐閣法律学全集の1冊として刊行した『会社更生法』の新版再版以降、存在せず、平成15年に新会社更生法が成立した後は、使える本がない状態と言っても良かった。そこへ、出版されたのがこの本である。著者は、既に、『民事訴訟法』、『破産法・民事再生法』(共に有斐閣)の体系書を出版しており、両方とも、実務家にとって信頼できる体系書である。学習者にも使いやすい基本書でもある。その著者が書いた本であるから、会社更生法の信頼できる体系書であることは間違いないと思われ、会社更生法の書籍の出版が少ないことも考えれば、事実上の「国定教科書」になる可能性は十分にあると思う。

 その意味で、早めに読んでおきたい本と考えた。もっとも、750頁を超える大著であり、読むのに時間はかかる。しかしながら、民事訴訟法や破産法がしっかり身についていれば、読み進めることは十分に可能な本であり、また、第一章の第一節は、「会社更生事件の一事例」と題され、事例も挙げられており、イメージがつかめるようにと会社更生法の初学者にも配慮されている。
 採用している学説もおおむね穏当な見解の学者の著作ということで、会社更生法の世界に、信頼できる体系書であることは間違いなく、これからも事件処理の際に参考にできる素晴らしい本に出会えたものと考えている。会社更生法の世界に、信頼できる体系書ができたことを本当に喜びたい。

 信頼できる体系書があることは、困ったときに戻るべきところがあることに他ならない。基本書は使い込むほど、自分にとって使い勝手の良い本に育っていくものである。これからも使い込んで、当職にとって使い勝手の良い本に育てていきたい。

 
 
 2冊目からは法律書ではない普通の本の書評を書こうと思いますので、次回の記事もご覧いただければ幸いです。

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弁護士 林 浩靖

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2012年12月17日 月曜日

21日(金)臨時休業のお知らせ

お知らせ

林浩靖法律事務所は、都合により、12月21日金曜日は、臨時休業とさせていただきます。

そのため、20日夕方以降のお問い合わせに関しては、対応させて頂くのが週明けの25日になりますので、ご了解賜りますよう、よろしくお願いいたします。

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