所長ブログ

2016年9月30日 金曜日

[書評]竹下守夫・藤田耕三編 民事保全法(有斐閣)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「民事保全法」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、「実務的体系書」(はしがきⅰ頁)とされているが、主文例こそ豊富に掲載されているものの、書式例はなく、「実務書」としては使いにくい。また、体系書としても、学者の執筆部分は多くはなく、理論的な安心感があるわけでもない。そのため、使いどころの難しい書物である。もちろん、平成8年に制定された「新民事訴訟法の下における民事保全法の初めての体系書」(はしがきⅱ頁)とのことなので、当時は、意義のあった書物なのだろうが、現在では、体系書としては瀬木教授の書物が出版されているし、実務書も豊富になったので、現在では、役割を終えた書物というべきだろう。

ただ、そうはいっても、民事保全法は、全体的に書籍が少なく、一定レベルの概説書なので、持っていて損はない書物である。

林浩靖法律事務所では、広く目配りして情報を収集し、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年9月23日 金曜日

[書評]松野 元 推論 トリプルメルトダウン(創英社/三省堂書店)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「推論 トリプルメルトダウン」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、元は四国電力株式会社に勤務し、財団法人原子力発電技術機構(現:原子力安全基盤機構)に出向していた経験を有する原子炉主任技術者である。

著者は、「肝心のデータが公表されていないことを感じたので、ついに論文を書くことをあきらめ、『推理』という形で発表することにした」(5頁)と述べており、確かに根拠のない部分もあるが、福島第一原発は、地震発生後、緊急停止したのであるから、直ちに、緊急時炉心冷却システム(ECCS)である高圧注水系(HPCI)を使わなかったから、大事故になったという内容で、今まで、福島第一原発の津波到来後を問題にする見解が多かったことからすれば、注目に値する見解といえる。津波到来前の問題点については、国会事故調以外は、問題なしとして、根拠もなくスルーしようという態度を示しており、極めて不自然かつ不合理である。今回の見解は、かかる政府事故調や東電事故調の批判として、極めて重大な意義を有するものである。

当職も、福島原発事故被災者の損害賠償請求訴訟に携わっているので、この見解を活かせないか考えていきたいと思います。また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年9月16日 金曜日

[書評]中野貞一郎編 民事執行・保全法概説(第3版)(有斐閣双書)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「民事執行・保全法概説(第3版)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の編著者は、民事執行法体系書もお書きになっている(現在は、下村正明教授との共著となっている「民事執行法」(青林書院)。該当する記事は、こちら)方であるが、その他の執筆者も上田徹一郎関西学院大学名誉教授や鈴木正裕神戸大学名誉教授、福永有利神戸大学名誉教授といった民事手続法の重鎮が数多く名を連ねる、恐ろしく豪華な執筆陣による概説書である。

本書は、「民事訴訟法とともに、民事法の分野における法実現の手続過程を規律」(はしがきⅳ頁)する民事執行法や民事保全法についての、安定した概説書である。文書が固いので、最近の若い方には向かないのかもしれないが、記述の安定感は群を抜いており、安心感のある文献である。

強制執行をきちんと行わなければ、民事訴訟で勝訴しても絵に描いた餅になりかねないし、民事保全をきちんとしておかなければ、訴訟係属中に状況が変わり、民事訴訟で勝訴しても無意味なものになりかねない。そのため、民事執行・保全の知識はきちんと押さえておく必要がある。

林浩靖法律事務所では、最新の情報を収集するとともに、長く生きている書物にも常に目配りして、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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2016年9月 9日 金曜日

[書評]青木冨貴子 731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く(新潮文庫)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

どの国にも、歴史に恥ずかしい部分があるが、わが国の場合、その一つが「731部隊」と言われた細菌戦部隊だろう。本書は、フリーランス・ジャーナリストである著者が、731部隊を率いた石井四郎元陸軍中将のノートという第一級の第一次資料を入手して、731部隊の全貌を示したノンフィクションである。

「細菌学の分野では必ず生体解剖じゃないと効果がない」(132頁)中で、占領地である満州(中国東北部)の平房に731部隊を設け、人体実験を行っていた石井四郎。しかしながら、彼は、戦犯として裁かれなかった。「日本の細菌戦データの価値は"戦犯"訴追より、国家の安全保障として遥かに重要」(435頁~436頁)と考える米国の思惑、「米国を押しのけて、石井部隊の研究を横取りしようと執念を燃やすソ連の圧力」(15頁)、「戦犯の追及を逃れるためには、占領軍から確約を貰った上で知っている情報を提供するしかない」(238頁)731部隊の関係者の思惑が絡み合う中で、戦犯としての訴追を免れ、「のちの『ミドリ十字』」(482頁)となる「日本ブラッドバンク」への流れを丹念に読み解いている。

歴史の恥部を見据えることは、避けて通るわけにはいかないし、このようなところに目をつぶって、自国礼賛を行うようでは、国際社会では尊重されない。

今回は、全く業務に関係のない書物の書評をしましたが、それでも、わが国の歴史押さえることは、必須の前提である。

林浩靖法律事務所は、法律に限らず、教養を身に着け、社会のためという確固たる信念を持って業務しておりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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2016年9月 2日 金曜日

[書評]三浦綾子 塩狩峠(新潮文庫)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「塩狩峠」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

当職は、あまり小説を読む方ではないが、それでもたまに無性に小説が読みたくなることがある。今回は、キリスト教徒である作家である著者の代表作である本書を読んだ。

優れた小説には、複数のテーマが隠れていることが多い。本書の解説では、佐古純一郎氏は、「『犠牲』という問題をテーマ」(455頁)と解説している。勿論、「犠牲」という問題という観点から読むことは問題なく可能である。ただ、当職は、「士族の子と町人の子とどこがちがうというのだ?」(19頁)、「人間というのはね、両手両足がなくても、目がみえなくて、耳がきこえなくても、一言も口がきけなくても、みんな同じ人間なのだよ」(29頁)という言葉から、平等や偏見の問題について考えされられた。人間には、現実として差異がある中で、なぜ平等という概念を考える必要があるのかという問題といっても良い。
日本国憲法14条には、平等が規定されている。その根源的な意味を考えさせられる。

本書は、もともと、「日本基督教団出版局から出ている月刊雑誌『信徒の友』に連載された小説」(453頁)であり、著者のキリスト教信仰と相まって、西欧的な考え方が踏まえられている。そして、本書の「主人公永野信夫は、いうまでもなく小説の中の永野信夫であって、実在した長野正雄氏その人そのままではない」(442頁)のだが、明治時代に実際にあった事故を下敷きにしてかかれており、時代背景も考えると、極めて先進的な考え方を取り入れていたと思う。

優れた小説は、いろいろなことを考えさせてくれる。今回は、全く業務に関係のない書物の書評をしましたが、それでも、弁護士としても考えさせられる記述はありました。

林浩靖法律事務所は、法律に限らず、教養を身に着け、社会のためという確固たる信念を持って業務しておりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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