所長ブログ

2013年7月21日 日曜日

[書評]七尾和晃 琉球検事 封印された証言(東洋経済新報社)

一冊、書評をしたいと思います。(本記事は書評なので、ここからは、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

本書は、「日本と米国、沖縄とアメリカ、大和と琉球。幾重にもからまった桎梏のなかで、司法の独立を守る使命を負わされた琉球検事」(8頁)の目を通じたゴザ事件の対応を中心に、沖縄の戦後史を扱った書物であり、中心となる登場人物は、比嘉良仁元琉球検察検事長、高江洲歳満元琉球検察公安部長検事、瀬長亀次郎元衆議院議員(元沖縄人民党委員長)の3名である。

私事であるが、本書の中心となる登場人物の一人、高江洲歳満先生には、一度、お会いさせて頂いたことがある。9年前の4月、当時、司法修習生だった当職は、さいたま市所在の菊地総合法律事務所の大塚嘉一先生の下に配属されて、弁護修習に入った。この事務所には、その年の3月まで刑事弁護で有名な高野隆先生がいらっしゃったが、高野先生は、ロー・スクールの教員になる関係で、東京へ移ることになり、退所されていた。しかし、まだ、ロー・スクールの担当する講義が始まっておらず、また、残務処理のために、よく事務所へ来られていた。そのようなときに、大塚先生から、「高野の刑事弁護も見てみたい?」(大塚先生と高野先生は学生時代からの同級生で、お互い呼び捨てで呼んでおられた)と聞かれ、当時修習生だった当職は見たいと希望した。ただ、高野先生はロー・スクールの講義準備のため、やっている事件を減らしておられたから、3ヶ月の修習期間中に見ることができそうなのは、当時、高野先生が、沖縄の高江洲歳満先生と一緒に行っていた、沖縄の米兵強制わいせつ事件しかなかった。そこで、この事件を見せてもらうことになり、高野先生と一緒に那覇地裁に行った際、高江洲先生とお会いして、公判の様子を見せてもらうだけでなく、終わったあとで、ステーキまでごちそうになった。温和な印象を受け、このときは、高江洲先生が、戦後の激動期の中で、責任を背負って仕事をされていたことなど、全く知らなかった。

高江洲先生は、事実を非常に大切にされていたが、それは、沖縄で「アメリカ世」(あめりかゆー)と呼ばれる米国統治期に経験された琉球検事としての経験が、そうさせている一面でもあるのかと思う。事実の大切さを理解していない法曹関係者は、さすがにいないとは思うが、日本流の訴訟方法は、「構成要件だけに事実を絞り込んでその範囲だけで主張と立証を行う」(54頁)という面があることは否定できない。他方、米国流の訴訟方法は、「すべての事実を審理し、その中から法的に意味のあるものを見つけ出すべき」(54頁)とするものであり、琉球検事として、米国流の訴訟方法を取り入れて、主張、立証を組み立てざるを得なかった経験が、高江洲先生に周辺事実も、きちんと扱う習慣をつけさせたのではないかと思う。

もちろん、日本流の訴訟方法がすべて悪いというわけではない。米国のようなあっさりと起訴して、後は裁判所に判断してもらおうとし、その結果、無罪判決になることも多い方法より、日本のようにしっかり捜査した上で、有罪と思われるものだけを起訴しようという方法の方が、罪を犯していない者は、早く刑事手続から外れることが多い以上、負担が少ないともいえ、日本流の方法に良い面もある。しかし、逆に、「しっかり捜査しているだろう」という思い込みが、冤罪事件を作っている面もあり、物事には良い面もあれば悪い面もある以上、バランスを考えながら、制度設計していくよりないのである。

本書は、本来は、沖縄の戦後史を扱う書物であり、特に、沖縄人の本土に対する潜在的な無意識や米国統治下での苦悩を中心に描かれ、今に続く基地問題などを考えるうえでも、参考になる書物であるから、機会があれば、ぜひ読んでいただきたいと思う。

東京・池袋所在の 林浩靖法律事務所 では、民事事件に限らず、刑事事件も取り扱っておりますし、日本流の方法の良い面はきちんと押さえながら、必要に応じて、他の考え方ができないかを常に考え、ご依頼者様の正当な利益をきちんと擁護できるように努めておりますので、お困りごとの際は、ぜひ、ご相談ください。

弁護士 林 浩靖



投稿者 林浩靖法律事務所

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