所長ブログ

2014年11月 3日 月曜日

[書評]塩谷喜雄 「原発事故報告書」の真実とウソ(文春文庫)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「『原発事故報告書』の真実とウソ」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、元日本経済新聞の記者で、科学ジャーナリストである。本書は、東京電力福島第一原発事故について出ている4つの事故調報告書(国会事故調報告書、政府事故調報告書、東電事故調報告書、民間事故調報告書)について、比較検討し、「つぶさに読み解く」(18頁)書物である。事故調報告書を読みやすくするという意味では、良書である。

そして、問題点ごとに評価が書かれ、特定の立場に立つことなく、客観的に評価しているので、各事故調報告書の長所、短所がよく分かる。例えば、国会事故調報告書は、「福島第一原発を襲った地震動と津波高さの確認、評価、検証をまともに行ったのは、国会事故調だけ」(69頁)と地震・津波の分析については高評価だが、逆に、「官邸問題と東電撤退問題では、国会事故調報告に見るべきものはない」(171頁)というように、低評価もきちんと示されている。

全体としては、4つの事故調報告書の中で、一番、良いのは国会事故調報告書という評価だが(第1章)、いわゆる原子力ムラに属するなど利害関係のないものから見れば、一番妥当な評価であり、当然の結論に落ち着いているともいえる。ただ、一番重いのは、「4つの事故調の報告に共通して欠落しているのは、日本の原発の地理的、社会的、構造的な特性と、そのリスクの冷静な評価」(178頁)という指摘だろう。原発事故の被害者弁護団にも入っており、原発事故被災者のための仕事もしている当職にとって、訴訟で明らかにできること、法律にできることには限りがあるが、その中で、考えていかなければならない重い指摘である。

震災に関する法律相談に限らず、法律の知識は当然ですが、その他のいろいろな観点の知識も加えて、皆様の期待に応えられるリーガルサービスを提供させて頂きますので、何かお困りのことがございましたら、東京・池袋にあります林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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