所長ブログ

2015年9月17日 木曜日

[書評]津田敏秀 医学的根拠とは何か(岩波新書)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「医学的根拠とは何か」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、岡山大学大学院環境生命科学研究所教授であり、疫学をご専門の一つにしている。公害事件や健康被害の事件の裁判でも専門家証人として、証言されている方である。

著者は、「科学的根拠(エビデンス)に基づいた医学」(36頁)を重視し、「『何倍その病気が多発する』という発生の程度の違いによってわれわれは因果影響を知る」(76頁)という観点から、疫学データを重視する。そして、個人の因果関係を知ることなどできないという立場から、「疫学データで明瞭に証拠が示されるようになって以降、その意味を理解できていない...判決がむしろ増えている」(80頁)と現在の裁判実務を批判している。

確かに、疫学データは、あくまで確率という形であらわされるから、個人の因果関係を直接知ることはできない面はある。ただ、直接的な原因が表せない面のある環境汚染や食品汚染などによる被害の場合、しかも、それが蓄積することで被害となる場合、そもそも「個人の因果関係」をどのようにすれば知ることが出来るのかということを示せない限り、疫学を「集団の因果関係」の証明にはなっていても、「個人の因果関係」の証明にはなっていないということを言っても説得力はないであろう。もし、現在の裁判実務の立場を維持するのであれば、「個人の因果関係」の立証方法を示す必要があるであろうし、逆に、示せないのであれば、疫学による証明(確率による関連性の立証)があれば、因果関係を肯定する扱いにするよりないだろう。このような意味で、医学(疫学)の立場からの、現在の裁判実務への鋭い批判が含まれているものと考える。法律家に対する重い問いかけであり、法律家として考える必要があるだろう。

当職が扱っている原発事故被災者の賠償でも、放射能汚染との因果関係の立証という点で、関連する書籍であり、本書で得た知識も生かしながら、これからも原発事故被災者のために頑張りたいと思います。

また、原発事故以外についての情報も、常に収集・消化するように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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