所長ブログ
2016年3月 7日 月曜日
[書評]吉田千亜 ルポ 母子避難 - 消されゆく原発事故被害者(岩波新書)
1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「ルポ 母子避難」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。
本書の著者は、フリーライターであり、以前、書評をした「原発避難白書」(該当する記事は、こちら)の編集幹事の一人である。
原発事故被害者の中でも、母子避難した被害者の方を中心に当事者の話が厚く盛り込まれている。特に、「自主避難者」と呼ばれる区域外避難者の問題を中心に取り上げている。もっとも、東京電力が原発事故を起こし、放射能を広範囲にまき散らかしたために、避難を強いられているのだから、「自主」的ではなく、強いられた結果なのだが、この問題を論じだすと本来の書評がどこかへ行ってしまうので、ここでは、便宜的に一般に用いられている「自主避難」という語を用いることをお断りする。
当職は、原発事故被害者の賠償問題にも関わっているが、巡りあわせもあり、旧緊急時避難準備区域と呼ばれる福島第一原発から20~30キロメートルの区域の担当案件が大多数を占めている。そのため、本書のように、自主避難者の特色が具体的に分かる書籍は、現在、原発事故被害者が分断され、国の失政によって分断を強いられ、苦しみを増幅させられていることを感じさせられる。「自主避難者たちは、避難の『正当性』や『合理性』を地震で説明しなければならない場面にたびたび立たされてきた」(100頁)などは、自主避難者であるがゆえの特色である。
日本政府の政策は、まさに「自主避難者は棄民」(211頁)するという政策であるが、平成24年8月で賠償を打ち切られた旧緊急時避難準備区域の者も棄民されており、避難指示の解除が進むにつれて、棄民が増えている状況にある。
当職も、福島原発事故被災者の損害賠償請求訴訟に携わっているが、少しでも、原発事故被害者に寄り添えるように頑張っていきたいという決意を新たにしました。また、原発事故以外の事件も親身に取り組んでおりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
弁護士 林 浩靖
投稿者 林浩靖法律事務所