所長ブログ

2016年7月29日 金曜日

[書評]桜井淳 新版 原発のどこが危険か 世界の事故と福島原発(朝日新聞出版)


本書の著者は、技術評論家、物理学者であり、本書は、福島第一原発事故直後に、新版として出版された。朝日選書の一冊をなすものである。

「本書の大きな特徴は、・・・原子力発電所における『非常用電源喪失事故』の危険性を強調したことになった。いささか重視しすぎたかとの懸念もあったが、今回の福島事故は、不幸にも、この私の警告が極めて正当であったことを示した」(3頁)という認識の下、1995年に刊行された旧版に、福島第一原発事故に関するあとがきを追加して出版された書物である。

本書は、「議論をできるだけすっきりさせるため、対象は、米国製軽水炉と旧ソ連製軽水炉」とする(11頁)ものの、「世界の安全問題からすれば、旧ソ連製黒鉛減速チャンネル型原子炉(いわゆるチェルノブイリ型原子炉)をむしすることはできない」(11頁)として、軽水炉と旧ソ連製黒鉛減速チャンネル型原子炉についての世界の事故を分析する書物である。

本書では、「今の判断基準では、結果的には事故・故障を過小評価する傾向がある」(19頁)、「国民の安全を守るという視点が完全に欠落している」(19頁)、「小児がんは続発している。被曝事故の被害は、交通事故などと異なり、晩発性である」(121頁)、「安全よりも電力の安定供給が優先されたり、事故の本当の原因が政治的にぼかされてしまったり、事故の責任がすべて現場の末端管理職や担当者に押し付けられてしまうなど、程度の差こそあれ、日本もまったく同じ状況」(122頁)、「事故の教訓は、世界的に全く活かされていないことがわかる。原発の弱点は、十分に認識されているにもかかわらず、一向にそれを克服できず、何度も同じことを繰り返している。これは、いまの原発の安全管理における最大の欠陥である」(186頁)など、福島第一原発事故で露呈した問題点が多く網羅されている。

そして、本書は、「世界の原子力政策に与える衝撃という点では、福島のほうが遥かに上回る」(221頁)ことを、福島第一原発事故からわずか2週間で指摘している。

そして、本書の指摘するように、「水力や火力、メタンハイドレート、風力や太陽光・・・。さまざまな選択肢に環境保全や省エネルギーの課題を絡めながら、これから半世紀や一世紀の射程で、展望を考えていかなければならない課題となった」(222頁)。そして、この課題は、事故から5年経っても解決していない。

当職も、福島原発事故被災者の損害賠償請求訴訟に携わっているので、事故前の知見として活かせないか考えていきたいと思います。また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年7月22日 金曜日

[書評]裁判所職員総合研修所監修 民事保全実務講義案(改訂版)(司法協会)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「民事保全実務講義案(改訂版)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、裁判所書記官の研修用に、「民事訴訟手続において実現されるべき権利等をあらかじめ保全することを目的とする」(1頁)民事保全制度の概略を示す書物であり、本文82頁にまとめられ、それに主要保全命令主文例集が加えられている書物である。

本文わずか82頁の書物であるから、細かい点の解説など全くなく、入門書としても不十分なレベルとは思われるが、逆に言えば、本書の内容が理解できないようであれば、業務として民事保全を行うことは、おそらく無理であろう。そのくらい、基本的な部分のみが解説されている書物である。

林浩靖法律事務所では、広く目配りして情報を収集し、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年7月15日 金曜日

[書評]森島昭夫 不法行為法講義(法学教室全書)(有斐閣)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「不法行為法講義(法学教室全書)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、名古屋大学名誉教授であり、民法、特に、不法行為を専門とされる。

本書は、1987(昭和62)年に出版された書物であるから、もう約20年が経過したことになる。当職が司法試験の受験生のときに、既に存在していた書物であり、参考書として手元に置いていた。
しかしながら、「不法行為法の規範内容に対する制定法規による枠付けは弱い」(1頁)上、「本書は、不法行為における現実の実践的な課題と学説の対応について全体的な鳥瞰図を示そうとしたもの」(2頁)であるから、条文に変化がない不法行為法において、まだ、有用な文献である。

実際、不法行為法の目的ないし機能においては、「市場メカニズムによる事故抑制機能」(477頁以下)など、現在でも、考える際の視点を与えてくれる書物である。

林浩靖法律事務所では、最新の情報を収集するとともに、長く生きている書物にも常に目配りして、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年7月 8日 金曜日

[書評]厳家祺・高皋 著 辻康吾 監訳 文化大革命十年史(中)(岩波現代文庫)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「文化大革命十年史(中)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、先日、書評をした「文化大革命十年史(上)」(該当する記事は、こちら)の続きになり、中巻である本書では、毛沢東と林彪との関係を中心に述べられている。「毛沢東は個人崇拝を利用して劉少奇を打倒した。そして劉少奇の突然の失脚によって出現した権力の空白状態を補うため、林彪を相棒に選んだ」(3頁)ものの、その「林彪は麻薬を吸っている」者であった(100頁)。そして、「今日林彪と文革の歴史を振り返ると、林彪が毛沢東に対する個人崇拝を造りだしたというのは、まさに彼が権力の絶頂に登りつめるための『近道』であり、まさしく彼が長い間夢のように望んで止まなかった『万事に利する』ことだった」(5頁)。林彪にとって、毛沢東の個人崇拝は、自分が出世するための手段であった。

しかし、「文革は林彪を党内第二位の高位にまで押し上げ、党規約が定める『後継者』とさせたが、林彪自身は国家職務においても、党内での地位に相当する高位を欲した」(206頁)とき、毛沢東の対立を決定付けた。林彪は、毛沢東の暗殺を謀り、失敗するとソ連への亡命を試みたものの、その途中、モンゴルにて墜落死を遂げた。それは、中国での権力闘争の凄まじさを示すものであった。もっとも、「林彪の死は毛沢東にとっても大きな打撃であった。自分が選んだ『後継者』であり、『副統帥』であり、『最も親密な戦友』である林彪が、どうして彼を暗殺しようとする凶悪犯になったのかを、毛沢東は人民に説明することができなかった」(262頁)のである。

林彪が死んだ後も、文革は続いていく。中国の権力闘争の凄まじさが現れている。

林浩靖法律事務所では、十分な法律知識だけでなく、教養を持って、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2016年7月 1日 金曜日

[書評]厳家祺・高皋 著 辻康吾 監訳 文化大革命十年史(上)(岩波現代文庫)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「文化大革命十年史(上)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

現在の中国の状況を理解する上で、文化大革命についての理解は必須だろう。現在の日本がアジア太平洋戦争の経験とその反省という基礎の上にあるように、現在の中国は文化大革命という経験とその反省の上にある。ただ、最近は、両国とも、反省の色が薄くなり、破綻を招いた状況への回帰が試みられているように思えるところに不安がある。もちろん、中国は好むと好まざるとにかかわらず、日本の近隣の大国の一つであるから、その状況は良くも悪くも無視することはできない。そこで、3巻ものの本書を読むことにした。本書は、天安門事件後亡命した著者両名による、文化大革命の状況を詳細に描くものである。著者は、日本語版序文の中で、「『文化大革命十年史』は、毛沢東と劉少奇、林彪、江青らの関係を中心に描いた」(序文ⅵ頁)と述べているが、上巻である本書は、毛沢東と劉少奇の関係を中心に述べられている。即ち、文化大革命の開始から、当時、中国の国家主席であった劉少奇の失脚・死去までを描いている。

著者は、文化大革命の発生の要因を、4つの点に求めている。要因の「一つはスターリンの死去後、中ソ両国の内外政策に明確な食い違いが生じたこと」(4頁)、「第二の要因は、毛沢東と劉少奇の食い違いが日増しに増大し、この食い違いが毛沢東の最高権力を動揺させる可能性があったこと」(5頁)、「第三の要因は、中国共産党の指導体制と、長い期間に形成された党内闘争の方法とが密接な関係にあること」(5頁)、「第四の要因は、中国大陸の専制制度に、大衆と政権の間の相互関係を調整する民主的なメカニズムが欠如していたこと」(6頁)との4点を挙げている。

文化大革命は、毛沢東が自身の最高権力を維持するため、大衆を利用して行った白色テロというべきものであるが、その「文革は人類史上、ある種の奇観を呈した。憲法と法律を隅へと追いやり、一個人の指示にしたがって完全に管理された社会がいかに展開されていくかを、文革の歴史を通して目の当たりにすることができる。」(序文ⅳ頁)憲法や法律が、その実効性を確保することができていることの重要性を示している。実際、文化大革命の中で、「殴打、家捜しなど人民の声明と財産を損なう運動」(113頁)が生じている。

本書は、中国の権力闘争の激しさと、個人崇拝による独裁の危険性、憲法や法律の重要性を示すものといえる。

林浩靖法律事務所では、十分な法律知識だけでなく、教養を持って、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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